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言葉・音楽・好奇心

『ファンタジーの世界』佐藤さとる - この本と出会っていなければ空想を忘れたツマラナイ大人になっていたかもしれない

佐藤さとる『ファンタジーの世界』。講談社現代新書。初版は昭和53年(1978年)。手元にあるのは第5刷で、昭和56年発行だ。この本は何度も読んだ。かなり影響を受けた。佐藤さとるの作品と初めて出会ったのは『だれも知らない小さな国』。たしか、中学生になったあたりだったと思う。それほど早くないよね。どちらかというと遅いんじゃないかな。小学校時代はこういう世界とは無縁だったから。講談社文庫で読んだ。緑か茶の背表紙だった……。

ファンタジーの世界 (講談社現代新書 517)

当時、佐藤さとるさんの作品は講談社文庫から発売されていた。一時期、すべて絶版になったときには驚いたよ。佐藤さとるさんの文庫は20冊ぐらい出たのかな。今、持っている『だれも知らない小さな国』は講談社青い鳥文庫と、数年前に復刊した講談社文庫の2冊。どうしても読みたくなって買ってしまった。こういうのって思い違いとかあったりして幼き頃の夢が壊れることもあるんだけど。だいじょうぶ。ところどころ記憶にズレがあるものの全体の雰囲気はぜんぜん変わらなかった。

res-c.blog.jp↑ の補足、『ファンタジーの世界』に話を絞りきれていない雑記

3章「ファンタジーとは」- メルヘンとファンターの違い

『ファンタジーの世界』の3章では、ロバート・ネイサン(1948年に映画化された『ジェニーの肖像』などで知られている作家)の言葉を借りたりして、メルヘンとファンタジーの違いを定義している。こんな感じだ。

1.メルヘンの世界は一次元性である。
2.メルヘンの登場人物は類型から出ない。
3.メルヘンの世界は、人々の心の内面にある共通の非現実を、そのまま外へ持ちだして広げたものと考えられる。


引用:『ファンタジーの世界』(佐藤さとる)のP69からP70より
※本文中では丸数字だが、機種依存文字につき「1.」とした

単純にいえば、メルヘンは非現実の世界だけ(一次元)で物語が進められるということだ。これに対して、ファンタジーは次のような性質があると。文章では、次のようにファンタジーを定義している。

1.に対して、ファンタジーの多くは二次元性の物語世界を持っている。
2.に対して、ファンタジーの登場人物は、内面世界を持った個性として描かれる。この点でリアリズムの申し子といえる。
3.に対して、ファンタジーは一人の作者の心の中(内面世界)にはいりこんで物語る形式。


引用:『ファンタジーの世界』(佐藤さとる)のP70より
※本文中では丸数字だが、機種依存文字につき「1.」とした

小難しい説明ではない。二次元性というのは、現実と非現実が明確に分かれていることだ。物語のなかで現実から非現実へ、もしくはその逆となる描写があり、その点がメルヘンとファンタジーの大きな違いだと。堅苦しいことなんて言わないで「楽しいか、楽しくないか」でいいじゃないの……と反論されそうな考えかもしれない。でも、未だに、この基準が自分のなかにあるんだよね。

4章「ファンタジーの創り方」- ファンタジーを創作する5つの条件

『ファンタジーの世界』の4章は結論のようなまとめから始まる。ファンタジーを創作するのに必要な条件が5つ挙げられていた。抜粋してみる。

第一は、想像力が豊かであること。
第二には、文章力を身につけること。
第三には、確かな人間観、世界観を持つこと。
第四に、旺盛な好奇心を持つこと。
第五に、根気だ。


引用:『ファンタジーの世界』(佐藤さとる)のP82~84より抜粋

それぞれに細かくて無駄のない説明が付け加えられている。抜き出した部分だけ見ると、少し高尚な内容に思えるかもしれない。特に、第三の「人間観」「世界観」あたり。「確かな」なんて言われたら、正しい倫理観を……みたいな文章だけれど、まったく逆だ。他人の意見を聞く、柔軟な考えを持つことが大切だと強調している。

第四は、そのままだ。好奇心は知識欲(「なぜ?」という疑問)には欠かせないもの。そんなことが書いてある。「旺盛な」という形容詞を付けているのには理由がある。どこにでも転がっているような好奇心だけでなく(これも必要)、他人が気付かない「マイナーな好奇心」も含めて貪欲にアンテナを広げないと、「本物の遊び」には到達するのが難しいということらしい。シンプルだけど、深い文章が綴られている。

いつまでも新しい好奇心を

「好奇心」。このブログのサブタイトルにも使っている言葉だ。影響されまくりだよね。もし、『ファンタジーの世界』を読んでいなければ、現在の自分は少し別の感覚を持っていたかもしれない。もちろん、そのような本は数多くある。本だけでなく、さまざまなものが自分を形作ってくれた。とてつもない感謝の念がある。直接の恩返しすることはできないけれど、最高の遊びである空想と幅広く旺盛な好奇心だけは失わないでいたい。それが自分に影響を与えてくれたものたちへの礼儀であると思っている。

 

 

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