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yosh-ash’s Space

言葉・音楽・好奇心

レディオヘッド 「セイル・トゥ・ザ・ムーン」 ~レコーディング風景を妄想してみる~

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「セイル・トゥ・ザ・ムーン(Sail to the Moon)」

レディオヘッドRadiohead)のアルバム『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ (Hail to the Thief)』3曲目に収録されている。ピアノがメインのバラードだ。「セイル・トゥ・ザ・ムーン(Sail to the Moon)」は、とても美しい曲だと感じる。

このアルバム。1曲目はディストピアの小説「1984」(ジョージ・オーウェル)を引用した「2 + 2 = 5」、2曲目「シット・ダウン。スタンド・アップ(Sit down. Stand up)」からの流れは秀逸だ。

イントロから、ジョニー・グリーンウッドのギターが切ない音色で絡んでくる。月に、夜空に、この身が溶けてしまいそうな音の固まりだ。アルバムに1曲ぐらい、こういう曲があってもいい。レディオヘッドの隠れた名曲だと思っている。

当然、わたし自身も聴いていると、溶けていく。

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レディオヘッドの曲は作詞と作曲を、メンバー全員が製作した作品という意味で「Radiohead」とクレジットしている。こういうのイイよね。バンドらしいバンドという雰囲気が伝わってくる。

実際は、トム・ヨークがつくってきたデモを元に、プロデューサーであるナイジェル・ゴッドリッチを含めて、他のメンバーが音を加えたり、削ぎ落としたりして、完成形へと向かっていく。ただ、歌詞に関しては完全にトム・ヨーク中心でつくられているようだ。

妄想レコーディング

ここからは妄想。完璧に妄想だ。自分の脳みそで繰り広げられた妄想レコーディング風景。

トムはキッドAの製作あたりから独学でピアノを覚えた。そんなトムが、珍しくピアノでつくったデモ曲をスタジオに持ってくる。「息子のための曲なんだ」とトムは言う。嬉しそうな顔だ。珍しい。それは、シンプルだけど、とても美しいメロディだった

さっそく、他のメンバーがアレンジの意見を出し合う。けれど、なかなか、しっくりこない。「行き詰まったときは引き算だよ」とミキサー室からナイジェル・ゴッドリッチが助言する。それでも、うまく進まない。「ボツかな…」。そんな空気がメンバー内に立ちこめていた。

「仕方がないな…」とジョニーが歌メロに絡ませるようなオブリガードをいろいろと試してみる。クリーンなギターの音色がスタジオ内に響く。少しずつ曲の形が見えてくる。長年の勘だ。輪郭のようなものがメンバー内で共有されていく。ピアノの前に座ったトムが唇を歪めて微笑んだ。

「セイル・トゥ・ザ・ムーン」の詞

トム・ヨークはこの曲を2001年に産まれた息子ノアのためにつくったと公言している。ノア(Noah)と聞いて、想起するのはノアの箱舟だ。この曲の歌詞にも出てくる。

これについては、トム・ヨークが、絵本「ノアのはこ船」(ピーター・スピアー作)の話題をインタビューなどで、ほのめかしている。読み聞かせでもしようと思っていたのだろうか?それとも幼いころのトム・ヨークがお気に入りの絵本だったのかもしれない。詳細は不明だ。

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数日後のスタジオ。あちらこちらから声が飛び交っている。

「ジョニー、最初のサビが終わるまで、指で弾いてくれないか?」
「もっと、クリーンな音のほうがいいよね」
「うん、でも、2番からは、ちょっと変えて欲しいな……」
「ピック弾きにしようか……」
「うん」
「イントロからギター入れる?」
「OK」
「エドはストリングスみたいなギターがいいな……」
「こんな感じ?」
「そう、深くディレイとリバーブをかけて……」
「ドラムとベースはイントロの途中からにしようよ、そして、歌の前に、もう一度、静かにするんだ」
「1番は静かなまま?」
「それがいいかな…」
「間奏からはドラムとベースを入れて、最後まで……それでいい?コリン、フィル?」
「いいよ」
「最後だけ、コーラス入れてみようか?」
「広がる感じが欲しいな……」
「エド、コーラス、よろしく」
「それじゃ、やってみよう」

トムがジョニーに視線を合わせ、静かにカウントをとる。
「ワン、ツー、スリー」
そして、ピアノとギターだけのイントロが始まる。

 

天空から頭のもやもやを払いのけてくれないかな

「セイル・トゥ・ザ・ムーン」の正式な曲名は「Sail to the Moon. (Brush the Cobwebs Out of the Sky.)」。サブタイトルを訳せば、こんな感じだろうか。

「セイル・トゥ・ザ・ムーン」は未完成のまま、お蔵入りになりかけた。レディオヘッドには同じように終息してしまった未発表曲が多数あるらしい。産みの苦しみからなのか、トム・ヨークジョニー・グリーンウッドはこのアルバムのなかで最高作品だと語っている。自分も「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ」のなかで最も好きな曲だ。

月の裏側は見えない。正確には、裏側のおよそ40%が地上からは見ることができない。それは、月の自転周期と公転周期が同期しているからだ。不思議な偶然だと思う。太陽系の惑星……例えば火星でも同じように母星から裏側が見えない衛星があるそうだ。宇宙の神秘は途方もない。

Sail to the Moon.

一緒に連れて行ってほしいよ。

 

yosh.ash